田舎の地方自治体が取り組むDX推進の課題と展望--静岡県で人口が最も少ない松崎町に聞く - (page 2)

「便利と合理化は違う」地に足を付けたデジタル化の推進

――デジタル化やDX推進には、旗振り役の存在も大きいと思いますが、神さんからみて深澤さんと木村さんの存在はどのように映ってますか。

神氏:旗は、ただ振ればいいものではないというのがあります。役場の職員や町民の方々のレベル感を捉えて、そこに負荷をかけすぎずにいい方向にもっていかなければいけません。そこをおふたりは、すごく考えて丁寧に実行されている方と感じてます。こうした取り組みで、内側の事情をわからずに思い切って突っ走ってしまう方もいらっしゃいますが、おふたりは地に足を付けて確実に前に進めていますので、すごく信頼をしています。

――ちなみに、おふたりから見た神さんの印象はいかがですか。

深澤氏:最初は何者だと思いました(笑)。ただ、神さん自身はもとより、周りとの接点を見ていくなかで、信頼するにたりうる評価ができる方ですし、自分たちに持ってない能力もあるというところで、期待させてもらっています。

木村氏:今回の協定だけではなく、移住に関する事業や町づくりのワークショップにも携わってくださっいて、いろんなところに顔を出されてます。毎日役場に来ているというぐらいですし、その知識や経験、そして行動力の高さも含めて公務員にはないものですね。

――デジタル化やDX推進は、それが目的化してしまいがちなところはあります。そのあたりは留意されていますか。

深澤氏:松崎町に関して言えば、まずデジタル化が時代の流れとして必要なもの、そして地域に対して便利になるというポテンシャルがあるもの、と捉えています。松崎町はゆったりとした空気感がある、時計の針が遅く感じると言われることが多いです。在住している方は、そのスピード感で生活しているんですね。その良さを住んでいる方に感じてもらえるようにするには、やはり便利であることが大事です。

 その上で、いろいろものがサービスに転換されすぎてしまっている状況があります。そうなると、地方の平均所得のわりに支出が大きくなって、生活に不安要素が増えていきます。そのあたりも含めて、デジタル化や、それを通じて便利になるということを、考える必要があります。

 例えば、人口減少のなかでいろいろな事業体が厳しくなっているなか、一番の懸念は交通事業者ですね。場所が場所だけにモービルの部分は大切なところではあります。ただ、それを整えたからといって高価なものだったり、利用されにくい状況では意味がないですから。

 極端なことを言うと、お金さえあれば何でも便利になります。でもそうはいかないところで、いかにインフラとして整えていくか。国としてもデジタル田園都市構想と、“田園都市”とうたっているのですから、担ってほしい部分もありますし、私たちも目指してやっていくべきだと思います。

 そして、便利と合理化は違うとも感じています。時間を含めて大切な無駄というものもありますので、そこはちゃんととっておきたいです。地域として、大切なものを削ってまで合理化されることはいいことではない。大切なものを引き継いでいくのは、とても難しいテクニックが必要ですし、受け渡す側が身につけなければいけません。何のために便利になるのか、何のためにデジタル化をするのかを見極めて、理解したうえでデジタルをツールとして使ってもらうことが大事ですね。

神氏:シンプルに「デジタルを使ってどうしたいか」だと思うので。よくデジタルが進むと分断が起きてしまうのではないか、という懸念を示す意見もありますが、町を発展させるためにデジタルの力をどう使うと成し得られるか、という考え方をベースにしています。

木村氏:個人的な意見も含まれるのですが、住民の方が自分のやりたいことができること、不自由を感じないということが大事です。そのためには、デジタルでもアナログでもどちらでもいいと思っています。その人が、今までできなかったことができるようになること、今までハンデとなっていたものが解消されて、自分のやりたいことの選択肢が増えて、生き方に幅が広がることが大切だと考えています。

 スマートフォンの中身はよくわからなくても日常的に使っているように、ある意味手段に関してはブラックボックスでもいいのかなと。どこまでいってもツールであって、手段でしかない。暮らしが良くなる、生き方が良くなる方向に向かうのであれば、何であってもいいと思います。この考え方を踏まえたうえで、デジタル活用により便利になることを進めていきたいです。

移住は“地域のことを理解していただくとありがたい”という本音

街から少し離れると、川が流れ田んぼが広がるという、自然豊かな光景が見られる
街から少し離れると、川が流れ田んぼが広がるという、自然豊かな光景が見られる

――新型コロナの影響で地方移住が着目されて久しいです。実際に松崎町へ移住される方は増えていますか。

深澤氏:増えていることは増えています。この先を考えるに、例えば、東京がこの先10年20年と経過すると、若年層の人口が減少するであろうこと予想もされています。このような大都市圏だと、分母たる人口が減ることは都市として不具合も出てくることも容易に想像できます。

 松崎町については、そもそものパイが少ないところもありますので、いろんな動きができることはチャンスかなと感じています。ただ、こうした方が地方移住をするにあたって、大都市圏ではできないことが自由に好き勝手できるかというとそういうわけではないですし、地域のコミュニティが壊されてしまう危険性もあります。実際に、移住者が来たことでトラブルまで発展した事例もあります。

 移住定住促進の協議会を立ち上げておりまして、こうした相談所があることで、スクリーニングとして機能しているところもあります。やはり地域のことを理解してもらった上で来ていただくとありがたいというのが本音です。こちらでも苦労する部分はあると思いますけど、ときにはお互いに寄り添えるようなことができる地域でありたいと思いますので、それを理解していただける方を歓迎したいです。

木村氏:移住については他の地域と競争の側面もあって、選んでもらう必要があります。ですが、選んでもらうための、町を知ってもらうための情報発信が難しいと実感してます。伊豆半島というと、海があって山があって、そして温泉があって食べ物が美味しいというイメージはありますが、それは他の地域でも同じです。その上で松崎町の良さというのはどこにあるのか、ですね。私が思うのは、街並みの落ち着いた雰囲気や、暮らしやすいところだと感じています。その良さを伝えて、引き継いでいただけるような方に移住していただけるといいなと思います。

――みなさんから見て、松崎町の方々の気質について感じるところはありますか。

深澤氏:歴史的なことを踏まえて思うに、わりとオープンで気軽に声をかけやすいかなと。それで、声をかけられて何か聞かれたら対応を真剣にするという、人間味のある方が多いかな。全般的にコミュニケーションを取りたがっている方は多いのかなと感じます。

 最近は大学生を連れてきて、一緒にフィールドワークをやってつながりを作りつつあるんですね。そもそも松崎町は高校までしかありませんので、大学生の世代はおおよそ9割以上、多いときは99%町から出て行ってしまうので、その世代の子がいないわけですね。それが観光などの遊びではなくフィールドワークとして松崎町に入って、地元の人たちに声をかけられると、すごく元気になるんです。そういう意味では、人との接点を求める方が多い気がします。

神氏:地元の人たちは、喋りたいんだけど、ちょっと受け身な感じで喋りかけられるのを待っているという雰囲気はあります。

深澤氏:地域風土として考えると、松崎町は温かい感じがするとは言われますね。面白かったのは、観光客が南伊豆を旅行していて、松崎に入ったら空気感が違うって言ってくれて、褒めてくれる方は割といます。それは在住している人たちのことを含めてだと思いますね。

――この先の中長期的なビジョンや、松崎町の未来像をお話しください。

深澤氏:デジタル化やDX推進もそうですし、スマホを持っている世代が高齢化の域に入ってくるので、それに対応した仕組みやサービスも求められるでしょう。逆に推進することによりリスクなどの新たな問題点も出てくると思いますし、それらを含めて、対応できる地域づくりをやっていかなければいけないと。

 街づくりにあたって、地域全体で進めていくには、デジタル化だけを進めればいいわけではないです。公共交通であったり、病院の診療などいろいろなものがリンクしていくなかで、デジタル化を通じてどう便利にしていくか。さらに、デジタル化されたうえで、それを活用して利用する方が増えていくこともあわせて大事なことです。

 この取り組みで期待してる部分は、私たちで知識を持っていない部分を、NHとISIDで補強しながら、遅れを取り戻しつつできるだけ便利に生活ができるようすることで、地域のウェルビーイングを高めていくことにつなげていきたいです。加えて、若い人たちがチャレンジできる環境づくりですね。ここで育って、仮に外に出ていったときでも良かったと言ってもらえるような地域にしていくというのが中期目標ですね。

 あとは、全国的に公務員が減少していますけど、松崎町も例外ではなく役場の職員も足りない状況にはあります。目が向けられにくいですが、働き方のありかたや仕組み、精神的安定性を提供しつつ、自分の目標達成に向けて、地域のことだったり他人のことを加味しながら実現できる地域であるべきだと考えています。パラレルキャリアとして、熱い思いのある方が加わっていただけるとありがたいです。

木村氏:まず役場に関しては、デジタル化などを通じて、働きやすい環境を作っていくというのが第一です。その結果として、住民サービスを良くする方向につながります。

 あとは、町づくりにおけるデジタル化、DX推進というと、交通関係をはじめとして福祉や観光を含めてやらなければいけないものがありますけれども、松崎町だけで全面的な投資を行って進めていくことは現実的に難しいです。人が少なく、経済力もない地域でも成り立つような仕組みについて、プレーヤーを探すなど外から見つけてくる必要もあります。こういう状況ではありますけど、内外含めて、松崎町のためにと思っていただける方を増やしていきたいです。

神氏:10年後、デジタルを正しく使える方が増えているといいなと。そこさえブレなければ、間違った道には進まないでしょう。僕も専門人材ではありませんが、町づくりとして方向性が決まったのならば、どのようにデジタルを使ったらいいかを、自分の知見やネットワークを活用して解決しようと思えるので、そういう発想をできる人が増えていればどうにかなりますし、それをしていければと思います。

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