イネの芽が最大約4倍に成長--シャープ、プラズマクラスターイオンで生育実証 - (page 2)

イネ内のエネルギー生成を指示する働きが約3倍にまで増加

 次に行われた実験では、プラズマクラスターイオン照射が代謝レベルでの反応を誘導しているのかどうかを検証するため、嫌気代謝の反応に関わる酵素遺伝子の働きを調べた。

 「嫌気代謝では、酸素を消費せずにでんぷん分解、解糖系、アルコール発酵といわれる代謝を進め、その中で生体内のエネルギー通貨として知られる『ATP(アデノシン三リン酸)』という物質を生み出す。今回対象とした酵素遺伝子に関しては、でんぷんの分解の初めの反応に関わる『アミラーゼ(Amy)』と、解糖系およびアルコール発酵に関わる『ビルビン酸キナーゼ(PK)』、『ピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)、『アルコール脱水素酵素(ADH)』の計4つの遺伝子に着目した」(山下助教)

 これら4つの遺伝子の働きを調べたところ、でんぷん分解の初めの反応に関わるアミラーゼの働きが約3倍に増加していることが分かった。

嫌気代謝の反応に関わる4種類の酵素遺伝子に着目したところ、どれも遺伝子発現が増加していたことが分かった
嫌気代謝の反応に関わる4種類の酵素遺伝子に着目したところ、どれも遺伝子発現が増加していたことが分かった

 「ほかの遺伝子に関しても、プラズマクラスターイオン照射による増加傾向が確認できた」(山下助教)

プラズマクラスターイオンによるイネの生育促進メカニズム
プラズマクラスターイオンによるイネの生育促進メカニズム

 これらの実験の結果、プラズマクラスターイオンを照射することで種子の発芽段階におけるエネルギーの代謝活性化が誘導され、それに伴う発芽促進や初期生育促進が引き起こされるメカニズムが分かった。

 一家准教授は「プラズマクラスターイオンによる植物の生育促進効果が大いに期待できることに加えて、植物の機能性や品質を強化できる可能性についても見いだしている」と語った。

 「わさび菜を用いた試験では抗酸化作用や肥満・糖尿病予防作用など健康機能性が知られている機能性成分『アントシアニン』の蓄積が誘導されることが分かった。パクチーを用いた試験では、抗酸化作用のある『βカロテン』の蓄積・顕著な増加が確認され、実際に植物原料の抗酸化活性が増加していることも確認できた。バイオ産業において植物機能性の成分市場は注目を集める成長市場であり、今後プラズマクラスター技術による植物の機能性成分の強化という応用展開も大いに期待できると考えられる。我々のグループも、この作用検証を随時進めていきたいと考えている」(一家准教授)

ワサビナでは「アントシアニン」が、パクチーでは「βカロテン」の蓄積や抗酸化活性誘導が進むなど、機能性品質強化の可能性も示された
ワサビナでは「アントシアニン」が、パクチーでは「βカロテン」の蓄積や抗酸化活性誘導が進むなど、機能性品質強化の可能性も示された

 研究結果のまとめとして一家准教授は次のように語った。

 「発芽から育苗までの期間にプラズマクラスターイオンを用いることで、栽培期間を短縮し、生産コストを下げるなど、実際の作物栽培にも応用展開できるという非常に有益な結果だった。植物工場においては、日本国内ではレタスなどの葉物が主流だが、国際的には、イネなどの穀物への適用も進み始めており、非常に意義のある研究成果だと考えている。今後、実用化に向けてこの研究をさらに発展させ、社会課題の解決に貢献されることを期待している」(一家准教授)

 今回の検証結果についてSmart Appliances & Solutions事業本部 プラズマクラスター・ヘルスケア事業部 副事業部長の岡嶋弘昌氏は「露地以外の栽培施設への導入の可能性が広がった」と語った。

 「われわれは過去に植物工場の方々から『食品を扱っているので、植物内で何が起こってるかわからないものの導入はなかなか難しい』という意見をいただいていた。今回、プラズマクラスターを植物に直接照射することで、植物が本来持っているエネルギー生成を指示する働きが約3倍に増え、その結果として発芽した芽の大きさが約4倍に伸長することが分かった。生育のスタートダッシュに貢献すると考えており、この内容を今後説明していきたい」(岡嶋氏)

今回の検証意義
今回の検証意義

プラズマクラスターイオンの植物応用、デメリットはひとつ

 植物には、レタスやキャベツなどのように光で発芽が促進される植物と、イネ、トウモロコシ、ほうれん草などのように光で発芽を促進できない植物があります。前者にはLEDの光による発芽促進が行われるが、後者には当然LEDの活用は行われていない。

 「光で発芽が促進されない植物の発芽促進に対しても、われわれのプラズマクラスター技術の活用を新たに提案できると考えている。また、光によって発芽が促進されるレタスのような植物でも生育の促進効果が出ている。当社の明るさ40W相当の蛍光灯レベルのLEDは消費電力が約21W程度あるのに対し、プラズマクラスターイオン発生器は4台で約3Wと消費電力が非常に小さい。LEDの活用状況によっては、LEDから置き換え、あるいは同時利用というところでの期待も持てると思う」(岡嶋氏)

 2つ目の意義として、プラズマクラスター技術が初期以降の生育過程においても効果が期待できると岡嶋氏は語った。

 「プラズマクラスター技術は今回ご紹介した初期以降の生育過程においても効果が期待できると考えている。エネルギーを作り出していく工程は、初期以降でも当然植物が大きくなる中で存在しているので、今回のスタートダッシュ効果以外の効果も今後期待されると考えている」(岡嶋氏)

 今回検証を行ったプラズマクラスターイオン発生器は業務用として既に販売されているもので、メーカー希望小売価格は親機が1台3万6000円(税抜き)、子機が1台1万6000円とのことだ。親機1台に子機を最大7台まで接続し、合計8台まで連結して使うことが可能だ。

今回の検証に用いた業務用プラズマクラスターイオン発生器
今回の検証に用いた業務用プラズマクラスターイオン発生器

 「日本国内では植物工場が420社ほどあると言われいる。商品として提案できるものはすでにあるので、そのうちの約10%の40社ぐらいをターゲットとして提案していきたい」(岡嶋氏)

 プラズマクラスターイオンはOHラジカルの酸化力による「除菌・消臭」効果をうたっており、実際に栽培容器の水耕液で細菌の増殖が抑制されていることも確認されていた。質疑応答では、微生物の増殖を抑える効果のあるプラズマクラスターイオンが、なぜ植物の生育を促進できるのかという質問が出た。

プラズマクラスター技術の基本原理と3つの基本作用
プラズマクラスター技術の基本原理と3つの基本作用

 岡嶋氏は「今回はまず植物の中で起こっていることを確認をしたのであり、その先はこれからの検証になる」と話し、次のように語った。

 「イネなどは触ると生育が良くなるなど、ある程度の刺激が植物を大きくさせていく効果があると言われている。(プラズマクラスターイオンは)プラスとマイナスのイオンを出しているが、風のみと比較するとイオンが当たることが何かしらの物理的な刺激になっていると今は考えている。今回は起こっていることが分かったので、今後はさらに踏み込んで確認していきたい」(岡嶋氏)

 一家准教授はプラズマクラスターイオンの植物への応用について次のように期待していると語った。

 「最近の食糧危機問題や地球環境を踏まえると、食料の安定供給は絶対的な課題になる。農地やエネルギーの問題などの諸問題を解決できる手法として植物工場での安定的な食料供給は全世界が課題としてると思う。植物工場の中でプラズマクラスターイオンの照射をさまざまな植物種で試し、初期生育が非常に高くなることをつかんだ。生育が良くなるだけでなく、機能性成分も良くなるため、高付加価値化にもこの技術が貢献する。生育が良くなるのは栽培時のエネルギーコストが低くなるため、生育時のCO2削減にも貢献できる。植物工場の栄養条件や栽培環境、衛生環境を考えると、水耕液の状態をコントロールしたり、病気の発生を抑えられることを考えると、悪いところが一つも見つからない。この技術は今後大いに発展していくだろうと期待している」(一家准教授)

 一つだけデメリットを挙げるとすると、「濃度が濃すぎると良くない」と一家准教授は語った。

 「強すぎる刺激は植物の生育を阻害するため、最適な濃度域をある程度決める必要があるだろう。多分、植物種によって違うので、この植物ならこのくらいというデータを積み重ねていくことが今後必要になってくると思う」(一家准教授)

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