人手不足にどう対処する?--家具、飲食、製造DXの3社が語るバーティカルSaaSの今

 家具のサブスクリプションサービスなどを展開するソーシャルインテリアは4月18日、飲食業界をメインにDX支援を行うインフォマート、製造業界のDXに取り組むアペルザと共に、「『バーティカルSaaS×人手不足』に関するラウンドテーブル」を開催した。

 ソーシャルインテリア代表取締役の町野健氏、インフォマート取締役の木村慎氏、アペルザ代表取締役社長の石原誠氏が登壇し、モデレーターをクラフトデータ代表取締役の早船明夫氏が務めた。

  1. バーティカルSaaSの現在の状況
  2. 業界を理解し、人手不足へ対処
  3. グローバル展開の可能性

バーティカルSaaSの現在の状況

 まずは、早船氏がバーティカルSaaSの2024年のトレンドを解説。業界に特化したSaaS企業は近年本格的に普及してきており、労働力不足を課題とする業界も少なくない中、投資家からも注目を集めているとした。

 また、効率化に関連するサービスはこれまで「あると便利」で「Nice to have」な存在だったが、2024年問題などにより、「Must」な存在へ変わったこともトレンドとしてあげられるという。

2024年のバーティカルSaaS 2024年のバーティカルSaaS
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 早船氏は、ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSの特徴についても説明。業界を問わないホリゾンタルSaaSと違い、業界に特化したバーティカルSaaSは業界規模や商習慣がそれぞれ大きく異なるため、各業界に合った考え方や攻略法が必要であるとした。

ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaS ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaS
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ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaS ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaS
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 続いて、インフォマート取締役の木村氏は、飲食業界のDXを支える中で自社が行ってきた取り組みについて語った。

 インフォマートは、それまで紙やメールでやり取りしていた見積もり書、契約書、発注書、納品書、請求書などをデータ化し、クラウド上で完結できるサービスを飲食業を中心としたサプライチェーンに提供している。2015年以降は飲食業以外にもサービスを拡大し、バーティカルSaaSからホリゾンタルSaaSに転換するような形で、利用企業数を増やしてきた。

インフォマートの取り組み インフォマートの取り組み
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 「飲食業界でシェアを拡大できたのは、インフォマートが創業した1998年と比べて、インターネットが速く安く、PCが薄くなってきたことと無関係ではない。お客様にPCの使い方を教えるなど、創業時は他の企業がやらないようなことも並行しながら事業を展開していった」(木村氏)

 これに対して、製造業界のDXに取り組むアペルザ代表取締役社長の石原氏は、「意外かもしれないが、製造業界はモノを作るところよりも、売るところで差がつく。その売るところを、デジタルの力で支援するのが当社のミッション」と語る。

 「工場の現場で働いている人は、モーターを選定するなど、買うべきモノを選ぶことがとても大変。買い手がネット上でいろいろな製品を検索でき、売り手はネットで自社の製品を露出して知ってもらう。アペルザカタログやアペルザDXなどのサービスで、この部分を支えている」(石原氏)

製造業界の多段階流通構造 製造業界の多段階流通構造
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 さらに製造業界は、売り手と買い手だけでなく、商社や販売店、部品を組み立てなど、さまざまなプレイヤーが間に入り、流通経路や販売経路がとても複雑だという。従来の流通経路を使わない直接販売を業界全体に広げていくことは難しいが、デジタルの力で各企業や各プレイヤーを連携させていくことで、人手不足の解消や、売上げの増加につなげることを目指していると、石原氏は語った。

 ソーシャルインテリアは、インテリアに関する受発注従事者の業務をDXで支える。代表取締役の町野氏は、「DX事業を思いついたのは創業時ではなく、先に開始した家具のサブスクリプションサービスを通して、われわれ自身が困ったから。紙のカタログを見て、電話で在庫確認をするのがとても大変だった。日本全国のメーカーが持つ家具の在庫を横断的に検索でき、受発注も可能なサービスが必要だと思った」と、事業展開のきっかけについて述べた。

業界を理解し、人手不足へ対処

 ディスカッションでは、それぞれの業界で人手不足、労働力不足にどのように対処しているかを深掘りした。

 インフォマート取締役の木村氏は、「コロナ禍によって飲食業界の売り上げが下がり、契約社員やアルバイトのスタッフが離れたことによって、残った社員の業務が非常に増えてしまった。しかし過酷な労働環境のままでは、残った社員も会社を離れてしまう悪循環に陥る。流通に関わる書類を電子化するなどできることはやってきたが、コロナ禍以降の新しい取り組みとして、飲食店のオペレーション効率化を推進する『V-Manage』をリリースした」と振り返る。

 V-Manageは、インフォマートと串カツ田中ホールディングスの合弁会社「Restartz」(リスターツ)が提供する、飲食店の開店から閉店までに行う業務工程をタスクとして可視化するサービス。英語、中国語、韓国語、ベトナム語にも対応しており、外国人労働者の教育にかかる時間も削減できる。木村氏は「コロナ禍からの人手不足はまだ続いているが、飲食店の店舗オペレーションをデジタル化することで、運営を効率化している」とコメントした。

 アペルザ代表取締役社長の石原氏は、「製造業界は、就労している方の平均年齢が40代後半と高めで、人手不足も深刻な状況にある。しかし、ホリゾンタルSaaSのサービスを導入しても、それぞれの企業の業務に合わず上手くいかないことも珍しくない。製造業界の方がどのような営業をしているのかなどを考えた上で、最適なシステムを作っていく必要がある」と、業界を理解する重要性について語った。

 ソーシャルインテリア代表取締役の町野氏も、自社の経験から、業界を理解することの重要性について説く。バーティカルSaaSはスタートアップのビジネスとして決して効率がいいわけではないが、競合が少ないからこそ、チャンスもあると語った。

 「どの業界も同じだが、たとえば飲食業界であれば、飲食が好きな人が集まらなければ成長していくことはできない。そういった人たちにどのようにITを覚えてもらうかを考え、業界と一緒にお互いに成長していく必要がある。バーティカルSaaSは非効率的かもしれないが、ビジネスチャンスでもある」と、木村氏もこの考えに同意した。

グローバル展開の可能性

 最後に、早船氏がバーティカルSaaSで注目している業界はあるかとたずねると、町野氏は「1つの業界につき、1つのバーティカルSaaSという考え方ができると思っている。食品、中古車、家電、靴などジャンルの名前が付くものであれば、バーティカルSaaSのサービスを生み出せるのではないか」とコメント。

 一方で石原氏は、「注目している業界とは異なるが、日本の売り手を海外の売り手につなげられたらいいと考えている」と語った。早船氏はこれに対して、「ホリゾンタルSaaSだと日本国内に特化したサービスになりがちだが、バーティカルSaaSであれば、意外と言語の壁を乗り越えていける可能性がある。グローバルな展開も見据えて事業を成長させていけるといい」と補足した。

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