神戸市、全国初の包括的AI条例を制定--スマートシティ目指しデータ可視化ダッシュボード第3弾も

 神戸市は4月30日、DXやスマートシティ施策に関するプレスラウンドテーブルを開催。スマートシティに向けて実施するさまざまな施策の1つとして、全国初の包括的なAI条例として制定した神戸市AI条例と、全国版ダッシュボードのアップデートを紹介した。

  1. 全国初の包括的なAI条例は神戸市から
  2. 「AI」が与える大きな影響
  3. 全国版ダッシュボードは第3弾を公開

全国初の包括的なAI条例は神戸市から

 神戸市AI条例は、「神戸市におけるAIの活用等に関する条例」を正式名称とし、3月29日に神戸市条例第25号として公布。神戸市および神戸市の業務を委託する事業者を対象に、神戸市民の権利・利益を保護しながら効果的かつ効率的な市政を推進すべくAIを積極的に活用するといった基本指針や、活用における注意点などを記している。

 また、AI活用が影響を与える可能性とその大きさを評価し、神戸市民の権利利益に与える危害を可能な限り低減するための手法を検討することや、生成AI活用の際のプロンプトへの個人情報等の入力および市会における答弁内容を生成AIに委ねることなどの禁止、AIを適正に活用するための教育を市立学校で実施することなど、具体的な内容まで盛り込んだ条例となっている。

神戸市AI条例の概要 神戸市AI条例の概要
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「AI」が与える大きな影響

 OpenAIが2022年11月に「ChatGPT」を公開してから、生成AIの普及が進んでいる。マイクロソフトの「Copilot」やグーグルの「Gemini」(旧Bard)、NTTの「tsuzumi」、NECの「cotomi」といったさまざまな生成AIサービスも登場し、活用が広がっている。

 国内行政への活用という点では、例えば議事録や各種申請書の自動作成、チャットボットによる自動応答と言った自動化から、ビッグデータの分析に活用する高度化まで、生成AIに限らないAIの活用が、さまざまな面で進んでいる。

行政で進むAI活用の一例 行政で進むAI活用の一例
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 神戸市でも2023年6月から2024年3月、職員約130人を対象にした試行利用を実施したのち、2月に生成AIの全庁利用を開始。96%の職員が「仕事の効率が向上する」と回答したという。

神戸市の生成AI試行利用概要 神戸市の生成AI試行利用概要
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利用アンケートの結果 利用アンケートの結果
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 一方、AI活用に伴うさまざまな課題も発生している。例えばオランダでは、児童手当申請システムにおける不正受給をチェックするAIが誤判定し、約2万6000人に対して誤った返金を指示。結果的に内閣が総辞職するまでに至った。急速な活用の普及とそれに伴う課題に対し、国内外でのルール作りが喫緊となっている。

国内外でAIにおけるルール作りが進んでいる 国内外でAIにおけるルール作りが進んでいる
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 神戸市では2023年5月、生成AIの利用を制限する条例を制定。生成AIを活用する際のプロンプトへの個人情報の入力禁止などを定めた。神戸市AI条例は、2度に渡って実施したAI活用におけるルール整備のための有識者会議などでそれらをアップデートして制定したもので、4月は一部施行という位置づけとなる。

 神戸市 企画調整局 デジタル監(最高デジタル責任者)の正木祐輔氏は、「国内では1月に、AIの開発者、提供者、利用者に分けてガイドラインを示した『AI事業者ガイドライン』が公表された。神戸市AI条例は生成AI以外のAIも対象とした全国初の包括的なAI条例で、『AI利用者』の視点で作成している。市役所業務にAIを利用する場合にどうコントロールするかという神戸市の自主的な取り組みを具体化しており、市民や事業者の活動に制約を課すものではない」とし、あくまで規制自体が目的ではないと話す。

 また、神戸市は、有識者会議の構成員となる5人をそのまま「神戸市AI活用アドバイザー」に任命。加えて、東京大学、Singular Perturbationsと、リスクアセスメント整備に向けた検証も実施する。具体的な手法を含む基本指針を策定し、9月末にAI条例の完全施行を目指すとしている。

アドバイザーの概要と5人の簡易プロフィール アドバイザーの概要と5人の簡易プロフィール
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 正木氏は、学習データの偏りから発生してしまうAIのバイアスなどを例に出しながら、「AIリスクを根絶して『ゼロリスク』にすることは現実的ではない。それを目指すとなると、一切使わないということになってしまう。そうではなく、使い手となる神戸市職員がAIのリスクを正しく認識し、適切に対処する仕組みを設けることが重要だ。市会における答弁内容の作成を生成AIに委ねることは禁止したが、事例調査や文献の要約など、答弁の参考となる資料の作成への活用は禁止していない。無制限なAI活用を認めるのではなく、一切を禁止するのでもなく、代表的な考え方とAIの効果的な活用のバランスを取ったもの」と、神戸市AI条例の意義を説明した。

神戸市 企画調整局 デジタル監(最高デジタル責任者)正木祐輔氏
神戸市 企画調整局 デジタル監(最高デジタル責任者)正木祐輔氏

全国版ダッシュボードは第3弾を公開

 神戸市は4月30日、「神戸データラボ」で取り組む全国版ダッシュボードの取り組みも発表。

 2023年2月の第1弾に続く第3弾として、国立社会保障・人口問題研究所が公開するデータを活用した「日本の地域別将来推計人口」と、総務省のデータを活用した「住民基本台帳移動報告」を追加した。

 日本の地域別将来推計人口は、2050年までの全国の地域別の将来推計人口を可視化。また、住民基本台帳移動報告は、住民基本台帳に基づいた転入・転出の状況を可視化しており、2020~2024年の全国の移動状況がわかる。いずれも神戸市のみならず、全国のデータをダッシュボードで可視化できる。

「日本の地域別将来推計人口」ダッシュボードのイメージ 「日本の地域別将来推計人口」ダッシュボードのイメージ
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「住民基本台帳移動報告」のイメージ 「住民基本台帳移動報告」のイメージ
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 正木氏は、「神戸市のデータ利活用部門とほかのさまざまな全国の自治体のデータ活用部門は、同じような課題に直面しているはず。神戸市もさまざまに試行して悩みながら取り組んでおり、他の自治体に参考にしてもらえたらうれしい。他の自治体の取り組みもぜひオープンにしていただいて、ともに高め合っていきたい」と話す。

 また、神戸市 企画調整局 政策課 データ利活用担当 課長の大漉実氏は費用面について、「Tableauのパブリッククラウドとオープンデータを活用しており、コスト面での別途の費用は発生していない。兵庫県と全国という違いはあるが制作のための作業量という観点ではほぼ変わらないため、コストはかかっていない」という。加えて、神戸市自身も施策の参考としてほかの自治体のデータを参照する場合があることや、データをオープンにすることで民間からの政策提案などを期待していることも明かした。

神戸市 企画調整局 政策課 データ利活用担当 課長 大漉実氏
神戸市 企画調整局 政策課 データ利活用担当 課長 大漉実氏
記者発表資料(ダッシュボード)

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