フードテック官民協議会、ビジネスコンテストを開催--“もったいない文化”で解決へ - (page 2)

食品ロスをセンサーとAIで可視化して“もったいない文化”で解決

 アイデア部門の優秀賞を受賞したグロービス経営大学院の南俊輔氏が発表したのは、センサー付きディスポーザーによって食品ロスを解決するという「もったいない文化×センサー技術×AIによる食品ロス問題解決」だ。

 プレゼンの冒頭で南氏は国連WFPが1年間に供給している食料の重量440万tに対し、まだ食べられるにも関わらず捨てられている食品の重量が日本国内だけで523万tもあると紹介した。

 「国民1人1日あたり、おにぎり1個分の食品ロスが発生していると言われている。日本国内の食品ロスの半分が家庭で発生しているが、最新データが一昨年度前のものしかなく、国全体のマスデータはあっても世帯ごとのデータがつかめない。データの集計はアンケート結果からの推計が介在しているため、“自分ごと化”には難しく行動変容には結びつきづらいのが現状だ」(南氏)

日本における食品ロスの推移
日本における食品ロスの推移

 南氏は食品ロスの半分弱を占めている一般家庭を基点に食品ロス問題を解決したいと語る。

 「事業者側は環境社会価値の追求と経済的利潤の追求がトレードオフしやすいのに対し、一般消費者は食品ロスの削減による各家庭の可処分所得の増大、すなわち経済的利潤の追求がそのまま国全体の食費ロス削減という社会価値創造につながる」(南氏)

 消費者に行動変容を促すためには、食品ロス問題に関心を持たせる必要がある。そのためには情報の鮮度と粒度、客観性が必要になるため、「食品廃棄のタイミングでセンシング技術を駆使し、廃棄量を可視化するソリューションを提案する」と南氏は語る。

 「われわれが作るセンサーを搭載したディスポーザーは生活動線に溶け込み、廃棄すると同時に食品ロス量が可視化され、スマホにその情報がタイムリーに反映される。日々の生活の無駄をキャッチアップし、そこに消費者が少しの工夫をすることで効果が現れ、お得感を感じてもらえる仕組みだ」(南氏)

消費者が「もったいない」と感じて行動変容に至るまでのイメージ
消費者が「もったいない」と感じて行動変容に至るまでのイメージ
捨てた食材をセンサーで感知し、AIでその中身を分類・推定する。それに対して食材別単価のデータベースを突き合わせ、重量を金額に換算する仕組みだという
捨てた食材をセンサーで感知し、AIでその中身を分類・推定する。それに対して食材別単価のデータベースを突き合わせ、重量を金額に換算する仕組みだという

 家庭ごとの食品ロスのデータを取得できると、世代別の重要な消費行動の分析に役立つと南氏は語る。

 「現在1家庭で年間約7万円のロスを発生させている。これをセンサー付きディスポーザーで金額換算、蓄積されたミクロ単位の消費者の行動データは食品事業者によって需給のミスマッチを極小化するツールとなり、事業系食品ロスを低減、同時に廃棄コストの低減が可能になる。行政にとってもロス量算出の効率化が図れるほか、焦点を絞った具体的かつ効果的な施策が打てる。つまり起点となるのは一般消費者の『もったいない』と感じる意識を呼び起こすことであり、そのツールとしてセンサー付きディスポーザーを活用。得られた行動データでさらに事業系食品ロスの削減や新たなビジネスチャンスを掘り起こして波及させていくというビジネスプランだ」(南氏)

食品事業者、一般消費者、行政が抱える課題とその解決策
食品事業者、一般消費者、行政が抱える課題とその解決策

 審査員を務めたAgVenture Lab 代表理事 理事長の荻野浩輝氏は「高い志とパッション感じたし、社会に大きなインパクトを与えられるのではないかと思う」と語った。

土壌劣化や貧栄養などの極限環境でも植物を生育できる微生物「DSE」

 ビジネス部門の最優秀賞に輝いたエンドファイトの風岡俊希氏が発表したのは、極限環境でも植物を生育できるプラットフォーム微生物「DSE」だ。

 「これまでの過度な農薬や化学肥料の使用、農地開拓によって世界規模で土壌劣化が大きな課題となっていると国連からも警告がなされている状況だ。2024年現在、世界において土壌の33%以上が劣化しており、2050年には90%以上の土壌が劣化するということが予測されている。こういった課題に対して私達は世界の緑化を実現するプラットフォーム微生物『Dark-septate endophyte(DSE)』の実用化を通じてアプローチする」(風岡氏)

「Dark-septate endophyte(DSE)」の概要
「Dark-septate endophyte(DSE)」の概要

 DSEは貧栄養環境の森林土壌から分離・選抜したもので、「植物の根っこに摂取させることで植物が通常は吸収できない栄養素の吸収促進、環境ストレス耐性の向上や病害耐性の向上、加えて季節、気候条件問わずに花を咲かせて実をならせることができるという効果をもたらせられる」と風岡氏は語る。

DSEを用いることで生育困難な条件下でも植物の生育が可能になるという
DSEを用いることで生育困難な条件下でも植物の生育が可能になるという

 「土壌のほかの有用微生物を巻き込んでさらに高い効果を植物に還元させることも可能な『プラットフォーム』的な役割も担っている。ゆくゆくはすべての植物をあらゆる極限環境で生育可能にする微生物ライブラリーの開発を目指したい」(風岡氏)

 用途としては有機・再生農業、都市型農園、植物工場、森林・土壌再生など汎用的で、「現在国内外での事業実施を進めている状況」だと風岡氏は語った。

 「当社はすでにこの菌株の優れたものをいくつか保有している。農家や事業者の環境の観点から必要なものを選択して選んで、それを培養土と混ぜ合わせる。その上で植物を育てると、植物の根っこに微生物が定着した高機能な苗ができあがる。環境ストレス耐性の向上や栄養吸収の促進、土壌病害の抑制、気候問わずに花芽を形成できる、CO2排出を抑制するといった効果が付与されるため、通常は難しい条件でも植物を生育できる」(風岡氏)

 基本的にすべての植物に適用可能な技術とのことで、さまざまな植物、多様な条件下で良好に生育することを確認できているという。

「イチゴの事例では、通常は花が咲かず実がならないような日照時間や気候に固定した上で、有機農業や慣行農業、強酸性土壌での栽培、中性土壌の栽培、さまざまな条件で比較した。うちの微生物を使うとどんな条件でも成長でき、実もなって、育苗期間が短くなって果実形成も増えて、糖度も20度ぐらいまで出た」(風岡氏)
「イチゴの事例では、通常は花が咲かず実がならないような日照時間や気候に固定した上で、有機農業や慣行農業、強酸性土壌での栽培、中性土壌の栽培、さまざまな条件で比較した。うちの微生物を使うとどんな条件でも成長でき、実もなって、育苗期間が短くなって果実形成も増えて、糖度も20度ぐらいまで出た」(風岡氏)

 農業経営の観点でもさまざまなメリットがあるという。

 「収穫量が増加するだけでなく、季節問わずに栽培できるため収穫機会が増加すること、劣化した土壌でも使えるため大面積での農地農業ができること、有機ブランドによって高単価化できるという観点で売上増加にも貢献できる。化学肥料が不要になるので費用コストも削減できるし、土壌も厳格に管理する必要がなくなるので管理コストも大きく減らせる。農業経営にとってはトップライン、ボトムラインに対して寄与する技術だ」(風岡氏)

農業経営におけるメリット
農業経営におけるメリット
他社の資材との比較表。「他社もいろいろな微生物資材を展開しているが、付与効果の網羅性や対象になる作物の範囲、量産コストが非常に安いなどの観点で優位性がある」(風岡氏)
他社の資材との比較表。「他社もいろいろな微生物資材を展開しているが、付与効果の網羅性や対象になる作物の範囲、量産コストが非常に安いなどの観点で優位性がある」(風岡氏)

 ビジネスモデルとしては「微生物を使ったDSE培土と、それで育てた苗を販売する物販事業をやりながら、技術を加速度的に普及させていくためにオープンイノベーション的に企業や研究機関、自治体と共同実施、共同開発を国内外で進めている状況」だと風岡氏は語った。

DSEのビジネスモデル
DSEのビジネスモデル

 「次年度からシンガポールやマレーシア、インドネシアなどASEAN地域に拠点を構えてアジア発グローバルベンチャーとしてグローバルに活躍していけるベンチャーになっていこうと思っている」(風岡氏)

 審査員を務めたアグリビジネス投資育成 取締役 代表執行役 兼 最高投資責任者の松本恭幸氏は「審査員満場一致の結果だった」と語る。

 「今は多くの耕作放棄地がある。そこで農業生産をやり直すためには苗などの根幹にあるもののバリューチェーンが非常に弱くなる。国内でもDSEは大変大きな貢献をするだろう。また、世界的な貢献も十分できることは間違いないし、それから環境問題等を含めた大きな社会解決にも大きく役立つだろうと思う。ぜひ地球規模で夢を持って、着実に一つひとつ実現していってもらいたい」(松本氏)

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