フードテック官民協議会、ビジネスコンテストを開催--“もったいない文化”で解決へ - (page 3)

ロボットが野菜収穫×AIで出荷も最適化「Sustagram Farm」

 ビジネス部門の優秀賞を受賞したAGRISTの山口孝司氏が発表したのは、収穫ロボットとAI農業プラットフォームによってハウスの可視化を加速する「Sustagram Farm」だ。

 AGRISTは2019年に宮崎県で設立した会社で、宮崎県はピーマンとキュウリの産地ということでピーマン農家やキュウリ農家の収穫時の人手不足を解決する収穫ロボットの開発を進めてきた。2023年には宮崎県と半導体商社のマクニカと三者で連携協定を結び、ピーマン収穫ロボットの社会実装を進めているという。

 「収穫ロボットはピーマンとキュウリの2種類があり、キュウリ収穫ロボットは2023年9月から国内の生産者が導入し、農場で動いている。2022年からは自分たちが農家になり、宮崎と鹿児島で3カ所の農場を持っている。このロボットを使った『儲かる農業モデル』を作っている」(山口氏)

ピーマンAI収穫ロボットとキュウリAI収穫ロボットを開発し、社会実装に向けた取り組みも進めている
ピーマンAI収穫ロボットとキュウリAI収穫ロボットを開発し、社会実装に向けた取り組みも進めている
自社でも3カ所の農場を運営しており、「2023年8月に立ち上げた鹿児島県東串良農場はフラッグシップ農場として最先端の農業をやっている」(山口氏)
自社でも3カ所の農場を運営しており、「2023年8月に立ち上げた鹿児島県東串良農場はフラッグシップ農場として最先端の農業をやっている」(山口氏)
自社の営農実績。「一般の農家より1.5倍ぐらいの収量を上げている」(山口氏)
自社の営農実績。「一般の農家より1.5倍ぐらいの収量を上げている」(山口氏)

 AGRISTでは自社で農場を運営することで収量を上げることに成功したものの、新たな課題に気付いたという。

 「できたピーマンやキュウリを市場に出すと、相場によって価格が下がり、収量を上げても売り上げが付いてこないという課題に気付いた。今後はAIを使って生産側と需要側のデータを連携し、最適な出荷タイミング、物量によって収益の最大化を図っていく取り組みをしていく」(山口氏)

 AIで出荷タイミングと物量の最適化を図る上でのポイントは収穫ロボットにある。

 「従来の定点観測によるデータ取得ではなく、ロボットに取り付けたセンサーによって収穫しながら圃場の中のあらゆるデータを取っていく。ロボットは実だけでなく花も見つけられるので、われわれの営農ノウハウや気象予測データを掛け合わせて精度の高い収量予測を作っていく。生産側としてはスマホ一つでロボットを操作でき、環境の状況も把握でき、収量予測もできる」(山口氏)

AI農業プラットフォームの概要
AI農業プラットフォームの概要

 山口氏によると、小売店の中には約4%の食品ロスを見込んで仕入れを行っていると聞いており、「データ連携による最適化で4%の食費ロスを半分以上減らせればいいと思っている」と語った。

 AGRISTは茨城県常総市のアグリサイエンスバレー常総にAI農業プラットフォームを使った大規模農場施設を作り、2024年12月から実証実験をスタートする。

 「このAI農業プラットフォームをわれわれの自動化農業パッケージ『Sustagram Farm』に実装していき、より再現可能性の高い儲かる農業パッケージとして販売していく」(山口氏)

自動化農業パッケージ「Sustagram Farm」の概要
自動化農業パッケージ「Sustagram Farm」の概要

 審査員を務めた明治ホールディングス ウェルネスサイエンスラボ ラボ長の長田昌士氏は「まさに『未来を創る!フードテックビジネスコンテスト』という名前にふさわしい考えだったと思う」と語った。

 「私たちから見て本当にこういう未来が想像できるように感じた。課題はあるのかもしれないが、すごく期待ができる内容だった。ビジネスとしてしっかり成功していただきたい」(長田氏)

色や香り、栄養を残したまま農産物を粉末化する「totteoki」

 審査員特別賞を受賞したグリーンエースの中村慎之祐氏が発表したのは、端材などの未利用食品を粉末化する「未利用食品を新たな食品へと生まれ変わらせる“粉末技術”」だ。

 「われわれが2023年に販売したショウガの和風ドレッシングには捨てられてしまうようなショウガの端材が使われている。このような“もったいない”食品をどう有効活用しようかと考えたときにわれわれが着目したのは、長期保存ができて汎用性が高い『粉末』だ。東京農工大学で約6年間研究に取り組み、色や香り、栄養を残したまま農産物を粉にする技術の開発に成功した」(中村氏)

グリーンエースの粉末化技術の概要
グリーンエースの粉末化技術の概要

 熱に風の力も組み合わせることで従来よりも圧倒的に短時間で農産物を乾燥させ、粉末化できるという。

 「われわれの研究結果では、従来の技術と比べてだいたい数倍から数百倍高い栄養を保持できることが明らかになっている。この技術を使うからこそ、色や形、大きさなどまったく問わず、すべての農産物を長期保存でき、使いやすい形に変えられる」(中村氏)

技術的な新規性
技術的な新規性

 この粉末化した野菜を「totteoki(とっておき)」として中村氏は紹介した。

 「多くの企業では食品を『リサイクル』ではなくて有効活用する『アップサイクル』の取り組みに注目が集まっている。しかし商品開発にはすぐに傷んでしまう食べ物をどう保存加工するのか、どんな商品に生まれ変わらせていくのか、長いサプライチェーンをどうやって管理するのかといった課題がある。われわれのtotteokiはそれらの課題を解決する」(中村氏)

粉末化技術を「totteoki(とっておき)」としてブランド化した
粉末化技術を「totteoki(とっておき)」としてブランド化した

 主に小売企業や外食企業を対象に、契約農家で発生する規格外野菜やプロセスセンターで発生するフードロスをグリーンエースの工場で粉末化し、最終商品まで生まれ変わらせて、もう一度小売企業や外食企業へ届ける仕組みだ。

アップサイクルにおける課題
アップサイクルにおける課題
粉末化技術と商品開発力でアップサイクルを共創できるという
粉末化技術と商品開発力でアップサイクルを共創できるという

 「ふりかけやスープ、ドレッシング、パスタ、パンなど、顧客のニーズに応えながらさまざまな商品を開発できる。現在までにフードロスの解決を志している大手の小売企業や卸売業と共同でアップサイクル商品の開発を始めており、色や香り、味などを高く評価していただいている。今年中には皆さんが通うようなスーパーマーケットでもわれわれが開発したアップサイクル商品が並ぶ予定だ」(中村氏)

現在進んでいるアップサイクル商品の開発に向けた取り組み
現在進んでいるアップサイクル商品の開発に向けた取り組み

 審査員を務めた味の素 執行役 ビジネスモデル変革担当 コーポレート本部 グリーン事業推進部長の柏原正樹氏は次のようにコメントした。

 「われわれ食品の仕事をしている中で言うと、食品は賞味期限もあり、移動時には包装も必要なため、粉末はものすごく素晴らしいソリューションだと思う。審査員の中でもやはり、ここは外せないだろうということで授賞になった。今回はアップサイクルという形で利用されたが、通常の原料を粉末化するだけでもすごく環境にいい。そういったところにも活用の可能性を感じる」(柏原氏)

 最後の講評として、審査員を務めたAgVenture Lab 代表理事理事長の荻野浩輝氏は次のように語った。

 「フードテックコンテストと言いながら、ほとんどサステナビリティの文脈で読めるサービスが多かった。時代を反映しており、正しい方向だと思う。プレゼンに出てきた言葉の中で『フードロス』や『アップサイクル』という言葉が出ていた。それを体現する『もったいない』という表現は日本のいい文化として生かしていきたいと思う。私が学生の頃に自動車のシートベルトが義務化されたが、それまで誰もしていなかった。でも今はしないと怖くて車に乗れない。そんな風にきっと変わってくると思う。フードロスの感覚やエシカル消費、環境に優しく作った作物をちゃんと値付けしてそれを評価して買おうという感覚も、時間をかけて頑張れば変わると思う。そのようにしていきたいなと、皆さんのプレゼンテーションを聞いて改めて思った」(荻野氏)

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